聴こえぬラジオにものを言い

とある田舎の大学生が、ときには社会学徒として、ときには新聞記者として、またあるときにはラジオの人として語りおろします。

便利の裏返し

電話一本で配達してくれる。

デリバリーサービスは、現代社会において欠かせない存在だろう。

 

だが、僕は1年半バイトした某宅配飲食チェーンを辞めることにした。

 

バイトを始めた当初、僕はただ商品を運んで入ればいいと思っていた。

 

バイト初日。外は土砂降り。

気が滅入るような気持ちで、1軒目の客に商品を届けるところを付いてって、その後、当時の店長に「じゃあ次は配達いけるよね!行ってらっしゃい!」と言われ、何も分からぬまま配達に出かけたことが今でも思い出される。

 

やっと慣れて来た頃にやってきたクリスマス。

大量の注文と店頭に溢れる客に、僕は辞めてやると思った。

だが、最後に配達した知り合いの先輩に「頑張って」と言われて、もう少し続けようと思った。

 

結局2度目のクリスマスもバイトをしていた。

毎週土日にバイトすることは僕の日課になっていたが、最近、どこか辛くなってきた。

 

そして、2月末で辞めることにした。

 

 

振り返ると、これまでの人生で辞める決断をしたことは一度もなかった。

辛い中でも部活動は続けたし、受験勉強も辞めることはなかった。

 

その僕が、バイトを辞めることにしたのは、店の問題というより、その某宅配外食チェーンの会社そのものの体質に嫌気がさしたからだ。

 

同社はバイトを「モノ」としてしか扱っていないのだろう。

売上に占める人件費の割合は15%程度が妥当だという計算で運営されている。

これは、いくらなんでも無理難題だ。

 

また、同社の店はバイトがいることが前提で運営されている。

つまり、正社員だけでは店が成り立たない仕組みになっているのだ。

これは、同社のみならず、飲食業界全体で言える話だろう。

 

こんな同社ながら、客のサービス向上のための方策といえば、バイトの技術向上と努力だけだ。

先日、同社は配達時間を短縮する新サービスを開始した。

記者会見で、同社の社長は「このエキサイティングなサービスで従業員の社への愛着も深まり、働きがいも増すだろう」と語ったという。

 

バカを言うんじゃない。

 

従業員は愛着を増すばかりか、呆れて離れてしまう。

 

愚かなことに、同社は売上しか頭にないようだ。

巷では「廃棄ロス」などが話題になっているが、そんなのは関係ないようだ。

 

同社の体質は、今後も改善されないだろう。

いや、それどころか益々悪くなるばかりだ。

 

僕はそんな会社に見切りをつけた。

 

 

現代日本は、物質的な豊かさや便利さを得た代わりに、精神的に貧しくなってしまった気がする。

短略的な数字にばかり気をとられ、本質を見失ってしまっているようだ。

 

悲しいことかな。便利は誰かの犠牲の上に成り立っていることを忘れてしまったようだ。